ロケットエンジン入門
概要
普段の業務とはあまり紐付かないが、たまにはこういうことを学ぶのも悪くないと思い、宇宙ロケットの概要を紹介する。
ここで取り上げること
- 液体ロケットの構造
- 代表的なロケット
ここで取り上げないこと
- ロケットの機体制御
- ロケットの分離機構
- 冷却技術
- 物理/科学法則の詳細
- …etc
そもそも宇宙ロケットの役割とは
ロケットは人工衛星、人、その他なんらかの物資(以下、ペイロード)を地球周回軌道や地球外に送り込むことを目的とする。 良いロケットとは以下のような要素が備わっていると考えることができる
- 安価でロケットの打ち上げができること
- 一度の打ち上げでより多くのペイロードを運搬できること
- 期待した場所にペイロードを運搬できること
- ISSへのドッキング、狙った高度の周回軌道への導入など
ロケットの一生
現在の日本の主要ロケットであるH2Aロケット における打ち上げシーケンスを紹介する。各国/各社さまざまなロケットはあるが、だいたい同じようなシーケンスになる。 特に第1段エンジンとブースターの分離時にどうするかは各社で対応が異なるケースがある。SpaceXの主要ロケットであるFalcon9 は公開に落とす代わりに打ち上げた場所の近くに戻ってソフトランディングさせて再利用するような感じになっているし、Rocket Lab社のElectronはヘリコプターで空中回収するような試みがあったりする。
シーケンスごとの機体がどこにいるかの目安 https://www.jaxa.jp/countdown/f14/overview/sequence_j.html
第1段ロケットの構造
ここではロケットエンジンの中でもとりわけ役割が多く技術的に難易度が高そうな第1段エンジンについて紹介する。
ノズル
日常生活におけるノズル
ロケットにおけるノズル
wikipediaからの引用
ノズル(日: 尖管,英: nozzle)とは、気体や液体のような流体の流れる方向を定めるために使用されるパイプ状の機械部品のこと。
ノズルは流れる物質の流量、流速、方向、圧力と言った流体の持つ特性をコントロールするために幅広く使用される。
ノズルの上部に燃焼室があるが、そこで得られたエネルギーを運動エネルギーに変換してロケット外部に噴出することでロケット本体に推力を得たい。
その運動エネルギーを最大限得るためにノズルを用いる。
運動エネルギーに効率よく変換するために亜音速(音速より遅いがそれに近い速度)と超音速での流体の違いを上手に活用する。 機体は圧力を上げると縮む(密度が上昇する)。逆に圧力を下げると膨張して密度が低下する。亜音速の場合、入力時と出力時にかけて圧力をかけることで速度が上昇する。 ホースの先を絞ると水の速度が上がるのと同じ原理。
しかし超音速の場合これと逆の現象が起こる
以下のような構造を用いることで最大限この性質を活用することができる
例:SpaceX社のFalcon9 Merlinエンジン
液体ロケットの概要
液体ロケットのエンジンの構造の概要は以下
覚えておきたい単語
用語 | 説明 | 備考 |
---|---|---|
酸化剤 | 液体酸素であるケースが多い。燃焼室で酸化反応を起こすために投入 | |
燃料 | ケロシン(灯油みたいなもの)や液体水素が用いられることが多い | 酸化剤と燃料をあわせて推進剤と呼ぶ |
ジンバル装置 | 支店周りに首振りをさせて機体の飛行方向の制御を実施する | |
燃焼室 | 酸化剤、燃料を投入し、燃焼させてエネルギー変換させる | |
ターボポンプ | 推進剤を燃焼室に送る役割を担う |
推進剤の燃焼室への供給方法について
ロケットを宇宙空間に押し上げる推力を得るためには推進剤のタンクから単位時間あたり一定の流量を燃焼室に贈り続けないといけない。 その供給方法についてここでは言及する。
大きく分けると「ガス押し式」と「ポンプ式」に分類させる。
ガス押し式の概略図
ポンプ式
ガス押し式は比較的単純で気蓄器からタンクに向かって圧力をかけて、燃焼室に燃料を流すという仕組み。この構造は単純なところが良いところだが、タンクが一定の内圧に耐えられる構造になっている必要があり、ポンプ式と比べるとタンクの質量が増える懸念がある。 よって大型ロケットに向かない構造となる。ポンプ式が現在の主力ロケットの推進供給方法としては主流である。
ポンプ式は燃料の一部をガス発生器(燃焼室と比較して低温、中温)で燃焼させて得た燃焼ガスでタービンを駆動する。そして同じ軸で繋がったポンプを駆動させて燃料を燃焼室に供給する。 タービンは700回転/secくらいで回るらしい。タービンとポンプをつないだ一式の部品をターボポンプと呼ばれロケットエンジンの中でも非常に重要な機器となる。
このターボポンプのおかげで燃料タンクはガス押し式と比べて圧力をかけずに燃料を供給できるようになるため、ロケット全体の軽量化に貢献する。
エンジンサイクル
ポンプ式の推進剤供給方式を用いるエンジンにおいてガス発生器で発生した燃焼ガスをどうするかによってエンジンの性能に差異が生じる。ここでは燃料の供給システム全体について見ていく。
代表的なエンジンサイクルは「ガス発生器サイクル」と「2段燃焼サイクル」がある。ちなみにH2-AロケットのLE-7Aエンジンと現在JAXAと三菱重工が開発している後継機であるH3のLE-9は2段燃焼サイクルを採用している。 SpaceXはどちらも開発しており、製品により適切なエンジンサイクルのエンジンを採用している。
ガス発生器サイクルの概要図(↑で取り上げたポンプ式の供給システム概要図と同じ)
2段燃焼サイクルの概要図
ガス発生器サイクルはガス発生器で発生させたガスをそのまま外部に排出する構成を取っている。
それに対して2段燃焼サイクルはガス発生器に燃料と酸化剤を入れるところまでは同じだが、そこで発生したガスを燃焼室に入れるという構成を取っている。 ガス発生器から出てくる気体はまだ燃料が燃焼しきっていないため燃焼室にそのまま注入することで推力が得られる。
2段燃焼サイクルの場合、ガス発生器 -> タービン -> 燃焼室とガスを流すことになるので、燃焼室の圧力よりタービン出口のほうが高圧な状況となる。 さらに言えば、ガス発生器はタービンを駆動するためにより高圧である必要があるので、エンジンで一番高圧な部分は燃焼室でなくガス発生器となる。
ターボポンプのタービン部分はエンジンの中でもかなり高圧な部分に晒され、ポンプ部分は比較的低圧かつ低温な液体に晒されるという環境が共存できる構造が要求される点で技術的な難易度が高い。
実際にH3ロケットのLE-9もターボポンプ周りの開発にずいぶん苦労していそうで、開発が遅延している。
https://www.jaxa.jp/press/2022/01/files/20220121-1.pdf
代表的なロケット
H2-A以外は民間ロケットによるロケットを挙げた。 また、ペイロードの重量は地球低軌道とされている2000km以下にペイロードを運搬するケースでの想定重量である
ロケット | H2-A | Falcon9 | Starship | Electron | Zero |
---|---|---|---|---|---|
開発元 | JAXA & 三菱重工 | SpaceX | SpaceX | Rocket Lab | インターステラテクノロジーズ |
エンジンサイクル | 2段燃焼 | ガス発生器 | 2段燃焼 | 電動ポンプ式 (今回は説明から省いたが、タービンが電動モーターに切り替わった感じ) |
不明 |
ペイロードの重量(トン) | 10 | 22.8 | 100+ | 0.3 | 0.1 |
一回あたりの打ち上げ費用 | 85~100億円 | 91億円(為替 136円で計算) | 開発中により未定 | 10億円(為替 136円で計算) | 6億円以下を目指している |
特徴 | 日本のロケット。 安定して打ち上げを成功させてきたが、昨今は民間ロケットの成長もあり、海外からの受注が撮れていないとのこと |
1段目のロケットが自分で戻ってきてそのまま着陸し、再利用可能。 | 現在開発中のSpaceXの新製品。近い将来に打ち上がると思うので期待しましょう。 | 1段目のロケットがパラシュートで下降させ、ヘリコプターで回収して再利用する。NASDAQに上場している。 | 日本の民間ロケット会社。現在開発中のロケット。JAXAと共同研究しているみたいなので今後の活躍に期待しましょう。 |
参考
https://en.wikipedia.org/wiki/Staged_combustion_cycle https://en.wikipedia.org/wiki/Gas-generator_cycle https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/6153.html
参考にした本